2025年6月11日
私たちは社会に生きる中で、「これは正しい」「これは間違っている」という価値観を自然と身につけます。
例えば:
「不倫は絶対にいけないこと」
「自殺は弱い人がするもの」
「罪を犯せば一生償わなければならない」
…こうした価値観は、家庭や学校、宗教、文化、時代背景などに強く影響されています。
しかし、この“思い込み”が自分自身を強く責め、追い詰めてしまうとき、それは精神衛生上危険な状態と言えます。
精神科医や臨床心理士の見解では、「強い罪悪感」はうつ病や不安障害といった心の病のリスクファクターとされています。
「“許されない”という信念が強すぎると、自分の存在自体が悪であると錯覚し、自罰的になりやすい」
— 臨床心理士・加藤亜矢子氏(公認心理師)
心理療法においても、**「罪悪感を解きほぐすこと」**は非常に重要なステップです。
不倫をする人の心理は一様ではありません。
愛情を感じられない関係性
過去のトラウマによる愛着の混乱
孤独の埋め合わせ
など、一見「不道徳」とされる行為の裏に、複雑な心理的背景があることは心理学的にもよく知られています。
「人は満たされない“情緒的ニーズ”を抱えると、倫理観より先に心が壊れることがある」
— 精神科医・斎藤学 氏(元家族機能研究所代表)
つまり、行為そのものを裁く前に、“なぜそうなったのか”を理解しようとする視点が、精神衛生的にも回復的なのです。
自殺に関しても、一般的には「やってはいけない」「逃げである」という否定的な言説が多く見られます。
しかし、医学的にみれば**「死にたい」と思うこと自体が、うつ病やストレス反応として自然な状態であることも多い**のです。
「“死にたい”と思った人が、“死ぬことすら許されない”と思うと、さらに孤立が深まる」
— 精神科医・松本俊彦 氏(国立精神・神経医療研究センター)
むしろ重要なのは、「死にたいほどつらい」「自分を責めすぎている」とSOSを受け止める社会の側の視点であり、道徳で否定することではないというのが精神医療の基本的なスタンスです。
これらは全て、「◯◯でなければいけない」「◯◯はしてはいけない」といった思い込みが心身を硬直させる典型的な例です。
“道徳的強迫”という症状では、「人を傷つけたかもしれない」「自分が不倫したことは永遠に許されない」と繰り返し悩むケースがあります。
自分を責め続け、苦しみを和らげるために過食や自傷、アルコール依存などに走ることもあります。
人は誰しも、失敗や逸脱を経験します。
その時、**「こんな自分でも生きていていい」「学び直せる」**と思える環境があることが、精神衛生を守るうえで何よりも重要です。
だからこそ、
「不倫=即悪人」
「自殺願望=弱さ」
「一度の過ちで人生終わり」
…こうした極端な価値観が社会に蔓延すること自体が、人々の心をむしばむ原因にもなりうるのです。
答えは NO です。
倫理的・法的責任や社会的影響がある行動は、当然ながら適切に向き合う必要があります。
ただし、その際に大切なのは、「行為の責任と存在の否定を混同しないこと」です。
松本俊彦『自傷行為の理解と支援』(日本評論社)
斎藤学『家族という病』(新潮文庫)
日本精神神経学会『自殺予防ガイドライン』
American Psychiatric Association. (2022). DSM-5-TR
「人として、してはいけないこと」
「許されない行動」
確かに社会的にはそうかもしれません。
でも、“そんな自分でも生きていい”という視点が、人生をやり直す出発点です。
このように、特定の行為を道徳的に断罪するのではなく、“心の仕組み”として理解し、ケアの視点で捉えることが精神衛生のために大切です。必要であれば、カウンセリングや心理療法の紹介も可能です。お気軽にご相談ください。