2025年5月28日
電気的筋肉刺激(EMS)は、リハビリから美容、スポーツコンディショニングまで幅広く利用されているトレーニング・施術法です。しかし、利用者によって「効いてる感じがしない」「痛みを全く感じない」といった体感の差があることは、施術者・指導者にとって現場の悩みのひとつです。
特に**「痛みを感じにくい人」**に対しては、EMSの出力設定が難しく、適切な負荷がかかっているのか判断しづらいという課題があります。本記事では、そのような人々に対して どのようにEMS出力を調整すれば安全かつ効果的か を、医学的・神経科学的な根拠とともに解説します。
痛みの知覚は、単なる末梢神経の刺激ではなく、中枢神経系(脳・脊髄)による解釈に大きく依存します。痛覚受容器からの信号は、脊髄を経由して脳に届きますが、その信号の処理は、以下の要素によって左右されます。
過去の痛みの記憶(扁桃体・海馬)
感情状態(不安・ストレス・怒り)
睡眠状態やホルモンバランス
加齢による神経伝導速度の低下
加齢による神経鈍化型
年齢とともに感覚神経が退化し、刺激に対する感度が低下。
スポーツ・筋肉質型
神経支配が発達しており、皮膚の感覚閾値が高く、電気刺激に鈍感。
ストレス耐性型(痛覚過敏と逆のタイプ)
慢性的な交感神経優位やホルモンの抑制により、脳が痛覚刺激を「ノイズ」として処理しない。
EMSは、皮膚上から電気を流し、運動神経を経由して筋肉を強制収縮させる仕組みです。主にAα線維という大口径の運動神経を通じて信号が伝わり、筋収縮が起こります。この刺激の強さは以下の2つで制御されます:
電流の強さ(mA)
周波数(Hz)とパルス幅(μs)
この2つを適切に調整しなければ、「痛みを感じない」=「筋肉も動いていない」状態に陥りがちです。
体感だけに頼らず、鏡やカメラで筋肉の収縮を確認することが重要です。特にインナーマッスルでは表面の動きが少ないため、触診や超音波、または姿勢の変化から間接的に効果を確認します。
痛覚が鈍い人には、以下の順序で段階的に強度を上げてください。
1段階目:皮膚がピリピリするレベル
2段階目:筋肉がピクピクと自動収縮するレベル
3段階目:関節が動き始めるレベル(安全に注意)
4段階目:動作トレーニングに活かせるレベル
この「4段階モデル」で、最低でも2段階目以上に到達していなければ効果は期待できません。
痛みを感じにくい人には、一般的な20〜40Hzではなく、80Hz以上の高周波数設定が有効な場合があります。
**パルス幅(Pulse Width)**も200〜400μsに拡張することで、深部筋への到達が可能になります。
※ただし、高出力での使用は必ず有資格者・専門家の監督下で行ってください。
痛みを感じないからといって出力を極端に上げすぎると、深層筋の過収縮や神経損傷のリスクがあります。また、翌日の遅発性筋肉痛(DOMS)や炎症も強くなりやすいため、目安となる筋反応を超えての出力調整はNGです。
以下の3つの評価指標を必ず確認しましょう。
項目 | 内容 |
---|---|
視覚評価 | 筋収縮の動きが見えるか |
触診評価 | 筋が硬くなっているか、波打っているか |
機能評価 | トレーニング後に姿勢、可動域、筋出力に変化があるか |
初回は痛みが少なくても、繰り返すことで中枢神経が学習し、「電気刺激=筋収縮」という認識が高まり、体感が変化していきます。これを**神経可塑性(Neuroplasticity)**と呼びます。
睡眠前:副交感神経優位で痛覚が強くなる→低出力に抑える
朝:交感神経が優位で閾値が高い→高出力に適応しやすい
→ 筋肉が動いていれば異常ではありませんが、痛覚・感覚の評価も含めた健康チェックをおすすめします。
→ 筋収縮の反応が見えるまで上げるのはOKですが、過度な負荷には要注意です。
EMSにおいて「感じない=効果がない」とは限りません。しかし、出力の最適化と筋収縮のフィードバック確認は必要不可欠です。特に痛覚に鈍感な人ほど、客観的な評価・計測・段階的調整が重要です。
「痛みがないから安心」ではなく、電気刺激に対する正しい反応と効果を理解した上で、安全かつ効果的なEMSトレーニングを行いましょう。