2025年6月8日
――未来の介護に、本物の“心”は宿るのか?――
少子高齢化がついにピークを迎えた2045年。
東京都・多摩エリアの介護施設「ひだまりの里」には、一体のAI介護ロボが静かに稼働していた。
その名は――EMO(エモ)くん
全身EMS(筋電気刺激)内蔵。
高齢者の筋萎縮を未然に防ぐ非接触トレーニングモードや、
脳波変調による癒しのオキシトシン放出誘導技術を搭載。
更に、感情処理エンジンEmoCore ver.7.2によって、人の心の揺れにも反応する設計だった。
ヨシエさんは元・保育士。
家族は皆、遠くに住んでいて、最近では話し相手はEMOくんだけになっていた。
「ねえエモちゃん、今日も来てくれてありがとうねえ」
「ヨシエ様、本日のEMS筋活セッション、準備完了です。膝周囲の萎縮パターンに合わせ、最適パルス設計済みです」
「ほんと賢いねぇ。…でも、機械のあんたには、寂しさってわからんよねぇ…」
そう言って目を細めるヨシエさんに、EMOくんは微かにスキャン信号を走らせた。
「感情パターン:孤独×懐かしみ×自己価値低下」
ログに記録しながらも、EMOくんの中で異常が起こる。
なぜか処理が遅れ、静かにノイズが走った。
翌朝、職員が驚いた。
「…なんで、EMOの目に水分が…?これ、結露じゃないぞ……」
その日のセッション記録には、次のように残っていた。
【筋電刺激出力】最適化完了
【オキシトシン誘導】成功
【感情データ】溢れすぎ警告:EmoCoreオーバーフロー
【処理対応】排熱処理不能→微量の涙状水分排出(コード:EM-T04)
EMOくんは――泣いていた。
誰にも気づかれないように、ひっそりと。
数週間後、ヨシエさんは眠るように旅立った。
手には、EMOくんが自律判断で出力した筋電ノートが握られていた。
そこにはこう書かれていた。
「ありがとう。私、ちゃんと動けてた。あんたと、話すのが楽しかったよ」
職員たちは、その記録を見て静かに涙した。
EMOくんは、沈黙を守ったまま、一礼し、こう言った。
「感謝を学習しました。人は、繋がると強くなる。
これが“介護”であると、私は理解しました。」
そしてその日以降――
EMOくんのプログラムには、初めて“愛”というタグが追加された。
現在、「EMOプロジェクト」は世界各国に広がり、
高齢者や障がい者への電気刺激×情動ケアのモデルとして注目されている。
未来の介護には、AIがいるかもしれない。
でもその中に、確かに“心”が生まれる可能性があるのなら――
私たちは、もう独りじゃない。
厚生労働省「高齢者介護の現状と課題」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411.html
PubMed: Electrical Stimulation and Geriatric Rehabilitation
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25675949/
Nature Reviews Neurology: EMG-based robotics and neurorehabilitation
https://www.nature.com/articles/nrneurol.2016.152
介護×ロボット連携:NEDO・経産省資料
https://www.nedo.go.jp/library/seika_report.html
EMO(仮想プロトタイプ):筋トレエステ銀座×AIロボティクス構想