2025年6月11日
まず大前提として、「美容整形をしたい」と思うこと自体が精神疾患であるという認識は医学的に誤りです。
美容整形は現代社会において正当な選択肢の一つであり、多くの人が自信回復や社会適応の一環として利用しています。
ただし、過剰に美容整形を繰り返す人や、他人から見て十分整っていても“醜い”と感じる人には、精神科的評価が必要なケースが含まれます。
特に問題視されているのが、「身体醜形障害(Body Dysmorphic Disorder, BDD)」と呼ばれる精神疾患です。
身体醜形障害とは、自分の身体の一部(特に顔)を「極端に醜い」と思い込み、生活に支障が出るほど執着してしまう精神疾患です。特に鼻や肌、フェイスラインなどが対象になることが多いとされています。
周囲から見ると問題がない、あるいはごく軽微な外見上の特徴に対して強いコンプレックスを抱く
鏡を頻繁に見る、隠す、触るなどの行動が過剰
社交不安や抑うつを伴う
美容整形に執着し、施術後も満足せず繰り返す傾向
一般人口の約1〜2%が該当(Phillips, 2004)
美容整形クリニックに来院する人の**最大15%**が該当する可能性あり(Veale, 2000)
鼻は顔の中心にあり、コンプレックスの対象となりやすい部位です。研究によれば:
美容外科における鼻整形希望者のうち、22〜33%がBDDの可能性あり(Sarwer et al., 1998)
手術後も改善せず、再手術・訴訟・抑うつのリスクが高い
Body Image Disturbance and Surgical Outcomes in Rhinoplasty Patients(Sclafani, 2004)
→ BDD傾向のある患者は術後の満足度が著しく低く、心理的サポートが必要
客観的に問題があるのか、単なる思い込みか
複数の専門医の評価を受ける
「他人は気づいてないのに自分だけ気になって仕方がない」という場合、BDDの傾向が疑われます
満足できず繰り返す場合、手術ではなく心理的アプローチが必要です
美容整形そのものが悪いのではなく、整形をする“動機”と“心の状態”が健康であることが重要です。BDDなどの精神疾患がある場合、手術はその根本的な解決にはなりません。
むしろ、手術後にさらに症状が悪化したり、訴訟リスク・自傷行為・うつ病の併発などに繋がることがあります。
美容整形は現代における自己表現の一つです。
しかし、その背景に心の病があるかどうかを見極めることは、美容外科医の責務でもあり、患者自身の責任でもあります。
鼻の整形をしたいと思ったとき、以下のことを確認してください:
第三者の冷静な意見を聞く(家族、友人、心理士など)
心療内科・精神科で一度相談してみる
「手術で本当に自分は満足できるか?」を自問する
美容整形を考えることは悪いことではありません。
でも、それが**「病からくる願望」であるならば、まず治療すべきは外見ではなく心**です。
Phillips, K. A. (2004). Body Dysmorphic Disorder: Recognizing and Treating Imagined Ugliness. World Psychiatry.
Veale, D. (2000). Outcome of cosmetic surgery and BDD. British Journal of Psychiatry.
Sarwer, D. B., et al. (1998). Psychological aspects of cosmetic surgery. Plastic and Reconstructive Surgery.
Sclafani, A. P. (2004). Psychiatric disorders and cosmetic surgery. Facial Plastic Surgery Clinics of North America.
American Psychiatric Association. (2013). Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM-5).
ちょっと待った!それ心から先に治療しないといけないかもって言ってくれる他人なんていません。だから自分で気づくしかないんです。このコラムが一人でもいいから、真実に辿り着くきっかけになりますように。