2025年6月11日
「うつ病の人のそばにいると自分も暗くなる」
「統合失調症って伝染るの?」
「情緒不安定な家族といると、自分まで疲れてしまう」
こうした“伝染説”は、職場や家庭、SNS上でも頻繁にささやかれます。しかし結論から申し上げると、
精神疾患とは、脳の神経伝達物質のバランス異常、遺伝的要因、環境ストレスなどの複雑な要因が絡み合って発症する“非感染性”疾患です。
うつ病、統合失調症、双極性障害、パニック障害、PTSDなどは感染しません。
飛沫感染や接触感染、空気感染といった**“うつる”メカニズムは一切ない**ことが世界中の学会で明確にされています。
「精神疾患に対する“感染”という表現は、まったくの誤りであり、患者に対するスティグマ(偏見)を助長する」
— 日本精神神経学会・倫理ガイドライン(2022年)
例えば、うつ病の人の話を長時間聞き続けていると、「自分も気持ちが重くなってきた」と感じることがあります。これは**“情緒的共感によるストレス反応”**であり、医学的には「共感疲労(compassion fatigue)」と呼ばれます。
これは感染ではなく、心理的なミラーリング現象です。
精神疾患を抱える人の近くにいることで、自分の感情や行動が乱され、心身に悪影響が出ることがあります。これは「共依存(codependency)」という心理的な依存構造の一部で、決して「うつった」わけではありません。
「うつるから関わりたくない」「精神病の人は怖い」といった誤解や恐れは、本人の孤立感・希死念慮(自殺願望)を増幅させます。
「最も危険なのは、精神疾患そのものではなく、それに対する無理解と拒絶である」
— WHO(世界保健機関)メンタルヘルスレポート(2021)
うつ病や統合失調症は、遺伝的素因が影響します(例:一親等の家族に患者がいる場合、発症リスクが高まる)。
ただしこれは**「感染」ではなく「感受性の違い」**であり、ウイルスのような伝染ではありません。
「あくまで“疾患に対する脆弱性”が共通しているだけであって、“人からうつる”という概念は科学的に成立しない」
— アメリカ精神医学会(APA)
出典 | 内容 |
---|---|
WHO Mental Health Report (2021) | 精神疾患は非感染性疾患である |
APA DSM-5-TR (2022) | 感染性疾患との区別明記、偏見防止の記述 |
日本精神神経学会「精神障害と偏見に関する声明」(2020) | “うつる”という誤解が偏見を助長すると指摘 |
PubMed研究レビュー(2018) | 共感疲労と精神疾患の家族支援に関する研究 |
✅ 精神疾患はうつらないと知る
✅ 関わる人が心のセルフケアを行う(例:心理カウンセリング、ペアレントトレーニング)
✅ スティグマ(偏見)を持たない・広めない
✅ オープンダイアログ(対話による回復)を意識する
精神疾患は、決して“うつる”ものではありません。
その誤解が、本人だけでなく周囲の人の心まで傷つけています。
医学的にも科学的にも、「関わっても感染しない」「精神疾患の人と関係を築くこと自体は安全である」ことは明確です。
今必要なのは距離をとることではなく、理解とケアのある“近さ”です。
WHO. World Mental Health Report, 2021.
American Psychiatric Association. DSM-5-TR, 2022.
日本精神神経学会「精神障害と偏見に関する声明」2020
Figley, C. R. (2002). Compassion Fatigue: Coping With Secondary Traumatic Stress Disorder
Perry, B. D. et al. (2013). Born for Love: Why Empathy is Essential
必要であれば、公共機関や信頼できるカウンセラー・精神科の相談窓口もご紹介可能です。どうぞお気軽にお知らせください。