宇宙開発からうつ病予防まで──世界が注目する「電気刺激療法（EMS）」の可能性

2025年5月26日

宇宙開発からうつ病予防まで──世界が注目する「電気刺激療法（EMS）」の可能性

はじめに：筋肉を動かすだけじゃない、EMSの“次なる可能性”

電気刺激療法（Electrical Muscle Stimulation: EMS）は、もともとリハビリテーション分野やアスリートの筋力強化に活用されてきた医療技術ですが、近年ではその可能性が筋肉強化の枠を超え、脳神経の活性化やメンタルケア、さらには宇宙環境下における身体機能の維持にまで拡がっています。

本記事では、世界の大学や医療機関、宇宙開発機構が進めるEMSの研究事例を紹介しながら、私たちの生活にどのように応用できるかを考察します。

【事例1】NASA・ESAによる宇宙飛行士の筋萎縮対策：EMSスーツ「Gravitation Loading Countermeasure Suit」

無重力環境では、わずか数日で筋力が20〜30％も低下するといわれています。これに対し、NASAやヨーロッパ宇宙機関（ESA）では、筋肉と骨への加重を模倣するEMS内蔵スーツ「GLCS（Gravitation Loading Countermeasure Suit）」の開発を進めています。

このスーツは、微弱な電気刺激によって下肢筋群を定期的に収縮させ、長期ミッション中の筋委縮と骨密度低下を防ぐ目的で設計されており、将来的には高齢者のフレイル（虚弱）対策として地球上でも応用が期待されています。

【事例2】米ハーバード大学医学部：EMSによる認知機能改善の可能性

ハーバード大学医学部の神経科学研究センターでは、EMSが脳内の神経可塑性に及ぼす影響について研究が進められています。特に、前頭前野や運動皮質への間接的な刺激がセロトニンやドーパミン系に影響を与え、認知機能や気分の安定に寄与する可能性が指摘されています（J. Neurosci. Res., 2023）。

現在、軽度認知障害（MCI）や初期のうつ病に対する非薬物療法として臨床試験が複数実施されており、今後の治療ガイドラインにも影響を与えることが予想されます。

【事例3】日本：医療用EMS「AC BODY」と精神疾患予防

日本では、EMS機器が高齢者介護や術後リハビリの現場で利用されていますが、民間の実践例としては、銀座のトレーニング施設「筋トレエステ銀座」にて、うつ病や自律神経失調症の症状を持つ利用者がEMSトレーニングにより睡眠の質改善や仕事復帰に成功したという報告も複数あります。

特筆すべきは、EMSレベル「MAX99」に到達するクライアントの多くが「気分の落ち込み」や「感情の不安定さ」を抱えていたという共通点。この経験的知見は、うつの前兆を“身体の反応”から先回りして察知する新たな可能性を示しています。

【事例4】韓国・延世大学病院：EMSを活用したPMSと月経前症候群のケア

女性のホルモンバランスと自律神経の乱れが原因とされるPMS（月経前症候群）に対し、韓国の延世大学病院ではEMSトレーニングを用いた腹部深層筋刺激による症状改善を試みています。2022年の臨床報告では、継続的EMS施術群において「月経前のイライラ・頭痛・むくみ」が有意に減少したとされています（Korean J Women’s Health, 2022）。

これは、骨盤内の血流改善と神経系統の安定化が大きく関係していると考えられ、今後のPMSケアの選択肢として注目されています。