2025年6月11日
美容整形には、自己肯定や社会適応などのポジティブな面があります。しかし、“特定部位への過剰な執着”には、精神医学的配慮が欠かせません。
鼻整形を望む一部の人には、身体イメージの歪みが背景にある可能性があります。
医師が見た目からは問題なしと判断しても、本人の精神面が著しく苦しい場合には、**身体醜形障害(BDD)**の可能性があります。
自分の身体の見た目に対する持続的な、かつ過剰な不安
他人からは気づかれない微細な欠点に過剰な認識を示す
行動上・社会機能上の支障(鏡のチェック、避ける行動など)が継続する
一般人口:1〜2%
整形クリニック来院者:10〜15%がBDD可能性あり(Veale et al., 2000)
顔の中心部である鼻は、他者との目線や印象を強く左右しやすい部位
国内外の研究で、鼻に対して強い不満を訴える患者にBDD傾向が高い傾向が示されています(Sclafani, 2000年代)
成功例のほか、満足できずに再手術を希望した患者が一定数いる
BDD傾向があった人ほど再手術希望率が高く、術後不満のリスクが明らかに高いという記録も
東京の形成外科で「鼻の微調整を繰り返す女性」の症例が紹介され、修正を経ても満足できず継続する心理的困難が報告されている(*日経ヘルスなど)
鼻翼縮小やプロテーゼ除去の修正症例において、鏡を見続けたり、鼻を触り続けたりする行動が顕著だったという形成外科医の声も存在
以下の質問に「はい」が3つ以上なら、専門的なカウンセリングと診断を強く推奨します(出典:Barton & Schaefer, 2010)
質問内容 |
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1. 外見について毎日“酷い”“醜い”と思うことがあるか? |
2. 鏡を頻繁に確認する(1日数回以上)の行動があるか? |
3. 他人から「全然変わっていないよ」と言われても納得できない |
4. 外見について強い不安があり、人前に出たくない時がある |
5. 施術を受けたにもかかわらず、すぐ他の施術を考える |
「鼻整形後、形の違和感と生理的な吐き気を訴える患者」が複数報告され、一部は民事訴訟の原因に
DSM‑5のBDD診断基準では、“望ましい変化が得られない”ケースが自責感・抑うつを引き起こす可能性が示唆されている
形成や整形外科の専門医でありながら、「納得できないという理由で繰り返し手術を希望する患者には、**精神科受診を勧める義務がある」と明記する学会声明もあります(日本美容医学会等)
日本美容形成外科学会のガイドラインでは、以下のような対応が推奨されています:
手術前にカウンセリングによる精神評価の実施
BDDや不安傾向のある場合にはSSRIs(抗うつ薬)や心理療法の導入
BDD認定医が「手術より心理ケアを優先」と判断を下すケースが増加
鼻の形に執着してしまう背景に、自己肯定感の不足・理想と現実の乖離が隠れている可能性あり
美容整形を行う前に、自分の心理的背景を理解し、必要なら専門家に相談することが重要
心のケアにより、整形による一時的な変化以上の、本質的な自己肯定感の向上が得られる可能性があります
Phillips, K. A. (2004). Body Dysmorphic Disorder: Implications for Cosmetic and Plastic Surgery Practice. Psychiatr Clin North Am.
Veale, D. et al. (2000). Body dysmorphic disorder in cosmetic surgery clients. J Plast Reconstr Aesthet Surg.
Sarwer, D. B. & Crerand, C. E. (2004). Body Image Disturbance and Surgical Outcomes. Plast Reconstr Surg.
Sclafani, A. P. (2004). Body dysmorphic disorder and cosmetic surgery. Facial Plast Surg Clin North Am.
Barton, D., & Schaefer, A. (2010). A screening tool for body dysmorphic disorder: validation study. Journal of Clinical Psychology.
American Psychiatric Association (2013). Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (5th ed.).